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金表面でアセンを合成しよう。それから分子を見てみよう(いいねの数だけ論文読む 3/51)

  • 執筆者の写真: guan satai
    guan satai
  • 2022年3月12日
  • 読了時間: 3分

 有機化学の手法によって優れた機能の分子を作ることができる要因の一つは、分子内の元素を置き換えることで性質がガラリと変化するという自然の掟があることです。このことにより、天然物では達成できない、素晴らしい機能を持った物質を創生することに成功してきたわけですが、想像した通りの物性や機能となるかは、残念ながら合成できなければ評価しようがありません。そして実際に合成できるかどうかは新規化合物ではわからないというのが正しい見方でしょう。いくら簡単な構造だからと言って、それが実際に合成可能か、可能だったとして単純に合成できるかは完全に未知なのです。

 アセン、すなわちベンゼン環を縦に伸ばしていった構造を持つ分子は、広がるπ電子系の影響から特徴的な電子的性質を持つため、現在広く注目を浴びる分子です。この分子の性質を操るうえでも異種元素に置換する方法は有効であり、B、N、P、O、Sなどの元素に置き換える研究はなされてきました。しかし、ある程度以上大きなアセン類は一般にあらゆる有機溶媒に対して溶解度が低く、また、ラジカル性を帯びやすくなり、反応性が高まることから、普通に有機溶媒に溶かして合成する方法は、保護基をつけたりマトリックスにしたりすることで有機溶媒中での合成が可能ではありましたが、なかなかに難しいとされています。

 一方で、固相合成や表面での合成は代替手段として有用であるとされています。それらは有機溶媒に溶かす必要はありませんし、特に表面での合成では高度な真空状態にすることで不安定さを無視することができます。さらに走査型電子顕微鏡や分子間力顕微鏡の探針を使用することで分子に対して直接"触る"ことが可能であり、そうして反応を起こすこともできます。

 今回、ウンデカセン(ベンゼン環11個がまっすぐつながったもの)およびその窒素置換体であるN, N', N'', N''', N''''-tetrahydro-6,12,19,19,25-tetraazaundecacene、5員環が付いた化合物、6,12,19,19,25-tetraazaundecaceneの4種類の表面合成が実現しました。この合成はNMRではなく電子顕微鏡を使って分子の形を見ることで達成されました。

 窒素置換体を合成したのは次の原料からです。この分子を金表面上に蒸着させた後、熱をかけることでretro Diels-Alder反応が進行し、エチレン部位を外すことで目的の化合物を得ることを予定しました。

 しかし、反応後に電子顕微鏡で分子の形を確認するとどうにも横が出っ張った形の分子もみられることが明らかになりました。AFMにより詳細な分子構造を確認すると、窒素を含む5員環を形成した分子も副生していることが明らかとなり、残念ながら混合物が得られてしまいました。では、探針を用いて原料に電圧のパルスを照射するとどうでしょうか?この場合、エチレン部位が外れ、6,12,19,19,25-tetraazaundecaceneが得られました。この分子はN…H-Cで相互作用があり、自己集積性を示します。結果、タイル状に集積していることが電子顕微鏡で確認できます。

 また、合成した分子の電子的特性が調べられました。理論計算により、熱分解によって得られた2分子は閉殻、すなわちラジカルではない分子ですが、電圧パルスによって生じた分子では基底状態で開殻、すなわち三重項状態のラジカル状態であることが明らかとなりました。芳香族性を評価するため、ベンゼン環の中心に仮想的な原子を置き、遮蔽の程度を計算することで芳香族性を評価するNICSにおいて、熱分解によって得られた2分子は窒素原子を含む6員環が反芳香族性を示すことが明らかとなりました。


 とまぁ、説明っぽいこと書きましたが、正直よくわからないところが多い論文でした。もう一度勉強しなおします!

Eimre, K., Urgel, J.I., Hayashi, H. et al. Nat Commun 13, 511 (2022).

https://doi.org/10.1038/s41467-022-27961-1

 
 
 

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