プロリン誘導体を触媒として使おう(いいねの数だけ論文読む 6/51)
- guan satai
- 2022年4月29日
- 読了時間: 3分
プロリンとは天然アミノ酸の一種であり、その中では唯一二級アミンであるという特徴があります。そのため、タンパク質ではターン構造を作るために利用されていたりしますが、化学史にとって最も重要な応用はリストが不斉アルドール反応の触媒として使用したことでしょう。これが不斉有機分子触媒の始まりです。今回はプロリン誘導体でニトロスチレンの不斉マイケル付加を進行させる論文を紹介します(リストのやつじゃないの、って?俺は天邪鬼なんだよ!!!)
マイケル付加を進行させる同種の触媒の開発はプロリンのカルボン酸部位を調整することを主眼としてきました。大きく分けると水素結合に関与するユニットをつける・かさ高いユニットをつける・塩をつけるの3パターンです。今回、ニトロ基と分子間相互作用するホスフィンオキシドに二つのフェニル基をつけた置換基を導入しました。P=O結合は大きく分極しており、ニトロ基と強く相互作用する一方で、フェニル基を導入したことでかさ高さが増し、前述の3パターンで言えば1番目と2番目のハイブリッド的な立ち位置にあります。この触媒を実際に反応に使用してみると、極性の大きいDMSOとTHFでは収率は低い一方でヘキサン、ベンゼン、ジクロロメタンでは収率が大幅に向上します。なお、そのどちらでもジアステレオ選択率、エナンチオ選択率は90%以上と、素晴らしい選択性を示します。しかし、最も高い性能を示すのはneat条件でした。この条件ではエナンチオ選択率、ジアステレオ選択率ともに99%以上、収率は99%でした。また、グリーンケミストリーを指向した溶媒を水とした反応条件も検討されました。ただの水でも高い立体選択性は示しますが収率が27%とかなり低い結果となりました。一方、brineを溶媒とすると立体選択性はそのままに収率は95%と、かなり高い結果となりました。


この反応では、まずピロリジン環の窒素がケトンに攻撃して活性化させ、続いてピロリジン環上のホスフィンオキシドとニトロ基が双極子相互作用が働き、反応点に対してRe面を向けることになります。これが立体選択性を生みます。たぶん二つのフェニル基との立体障害でニトロオレフィンの伸びる向きが決まる、ということなのでしょう。
ちなみに、立体障害しか持たないただのホスフィンと、分子間相互作用がホスフィンオキシドより弱いホスフィンスルフィドでもneat条件で実験を行いました。ホスフィンの場合は収率は変わらず立体選択性が若干低下する程度の変化でした。しかし、ホスフィンスルフィドでは収率がかなり下がり、ジアステレオ選択性はさほど低下しないものの、エナンチオ選択性は大幅に低下し、ほぼラセミ化します。ホスフィンの場合はニトロ基とそこまで強い相互作用を持たないでしょうから単純に立体障害だけで立体選択性を制御するのでしょうが、ホスフィンスルフィドでエナンチオ選択性だけが大幅に低下するのはなかなか驚きですね。たぶん同様の相互作用が働くものの、攻撃面の調整まではできないということなのでしょう。
以上、なんかすごい数字出してる有機分子触媒でした。ここまですごい値だと疑わしく思えてくるのは私だけでしょうかね…?ちょっと古い論文なのでひょっとすると後続の、もっとすごい結果が出てるかもしれないので後で調べてみようかな
Bin Tan, Xiaofei Zeng, Yunpeng Lu, Pei Juan Chua, and Guofu Zhong, Org. Lett. 2009, 11, 9, 1927–1930
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