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フォトクロミック分子でX線を検出しよう!(いいねの数だけ論文読む 2/51)

  • 執筆者の写真: guan satai
    guan satai
  • 2022年1月28日
  • 読了時間: 3分

 フォトクロミック分子とは、とある波長の光を照射すると吸収する光の波長が変化し、結果、色が変わる分子です。有名どころではアゾベンゼンもそうですが、様々なタイプの分子が開発されています。今回紹介する論文ではその一例であり、他の分子にはない特徴を併せ持つ分子teraryleneを利用してX線を検出したという論文です。

 teraryleneは以下のような分子で、UVおよび可視光で閉環、開環状態を切り替えることができます。この分子を修飾していくことで様々な性質を示す新たな光応答性分子が合成されてきました。この分子の実用性を考えた時、とある矛盾が起きてしまいます。つまり、閉環反応が進行しやすいほど開環反応は進行しにくく、その逆もまたしかりということです。この分子の場合、開環反応がより進行しにくいので、開環反応をどうにかして効率化する必要がありました。

 この基本骨格を基に、著者らはさらに分子骨格の最適化を行い、一電子移動による開環反応を進行させる新たな分子、手法を開発しました。この分子は一電子酸化を受けて励起状態となり、自発的に開環し、電子を他から奪ってきて基底状態へ収束します。ここで画期的だったのは、この電子を他から奪ってくるプロセスが、他の同種の分子に対して行うことができ、それが高効率であるということです。要するにラジカル連鎖反応が起こり、次々と開環させていくことができるのです。生成させたラジカルのターンオーバー数は1000に到達します。

  今回の論文で最もよい数値を出した分子(開環状態)

 クロロホルムは基本的な有機溶媒の一種であり、有機合成の研究室でクロロホルムが無いというのはほぼありえないでしょう。しかし、そんなクロロホルムですが実はそこまで安定ではなく、安定剤を入れたり、分解して生じるホスゲンを処理する為に銀箔を容器に入れたりします。一般にハロアルカンにX線を照射するとラジカルが生じることが報告されています。では、このラジカルを先ほどの開環反応の開始剤とすれば、色の変化としてX線の存在を確認できるのではないでしょうか?

 実際に100 mGyのX線を照射する実験を行ったところ、検討した中で最も効率の良い分子では10分でおよそ40%の吸収強度の減少が確認されました。これはおそらく目視で色の変化が確認できる程度でしょう。また、照射するX線の強度を変化させると1~10 mGyまででは開環率はほとんど照射強度に比例するので、X線の簡便な定量にも使用しうる結果となりました。検出限界(X線の照射が無い時に開環する割合と統計的な区別がつかなくなる)は0.3 mGyと計算され、これは他の有機小分子よりも低い値でした。

 以上、有機分子でもってX線を検出する研究でした。ラジカル源があれば色が変わっていくというのは、X線の検出だけではなく、反応解析を含め、様々な場面におけるラジカルの存在確認に応用できるのではないかと思います。今回のX線の検出は、再び閉環させれば再利用できることや検出限界が非常に低いことはよいことなのですが、やはり色が変化するのに時間がかかってしまうのが欠点でしょうか。X線の強度が強くなるほど色の変化の速度は速くなるということは分かってはいますが、X線関連の事故を防ぐにはX線を迅速に検出できなければなりません。今後速度の問題を解決できると実用化の道が拓けるんじゃないかなぁと思います。


 この論文書いたのは奈良先の河合研究室です。今私がやってることに一番近い研究室ですから興味あります。ただ人気っぽいから他を第一志望にしてたら椅子取りゲームに参加することもできなさそうですね。

 
 
 

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