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たくさんの分子のリングに糸を通せ!

  • 執筆者の写真: guan satai
    guan satai
  • 2020年6月30日
  • 読了時間: 3分

 今回紹介するのは、Yunyan Qiu氏らによる分子ポンプの論文『A precise polyrotaxane synthesizer』である。この論文は発想がだいぶ愉快なものなので、ぜひ読んでいただきたい。

 ロタキサンは棒状の分子で大環状の分子を貫通させたような形の分子の総称である。この環状分子と棒状分子の間は共有結合ではなく、水素結合や配位結合などの相互作用が働いている。この棒状分子に高分子を用いたのがポリロタキサンである。

 ここまでの説明だけでもずいぶんと変な分子が存在したものだな、と思う方がほとんどだと思うが、この論文ではさらに一つの軸に対して10個までの環状分子を貫通させた分子が報告されている。当然、熱力学的に不安定な構造だが、分子構造の設計でその問題をクリアしている。下の図が今回の論文の模式図である。(原論文より引用)


 図に示されている通り、還元、酸化の繰り返しで、高分子を軸としてバルクの環状分子のCBPQTが挿入されていく。ここで働く相互作用は上記の水素結合などではない。CBPQTも入り口のBIPYやPYもともに正の電荷を帯びており、本来であれば接近することもままならないが、還元によってBIPYとCBPQTがラジカルになることで、ラジカル間の相互作用が働いて挿入されていく。この還元の時点では、挿入されてはいるが、環状分子はまだBIPY上にとどまり、図に示したような中央の高分子鎖上にいないものと考えられており、酸化を受けてラジカルが解消されると反発を受けて環状分子が動き出す。なお、この酸化還元は酸化剤、還元剤以外にサイクリックボルタンメトリーでも大丈夫だそうだ。話を元に戻して、酸化を受けた後の環状分子の行先は今回の狙いである高分子中央方向以外に、再びバルクへ戻っていくルートがあるが、これはPYが正電荷を持っているためより不安定なルートである。ラジカルの相互作用で入り込み、ラジカルが無くなっても外に逃がさないような構造によって、還元-酸化-加熱の順でサイクルを回していけば次々と環状分子CBPQTが挿入されていく。同時に、環状分子の挿入により分子の剛直性が増していき、高分子鎖がまっすぐ伸びていくことが観測されている。

 Yunyan Qiu氏はこの分子ポンプでCBPQTが高分子鎖上に次々並んでいくことから、画期的な高分子合成法に繋がると予想している。たしかに、普通に溶液に溶かした状態ならこのように整列した状態は作り出せず、結晶や液晶のように規則正しく配列した状態なら良好な立体選択性を持たせた高分子合成が可能になるかもしれない。これはCBPQTに適当な置換基を導入して実験してみれば確かめられるだろう。

 私はこの分子ポンプは分子マシンとしての利用ができると思う。今回は両端から受け入れる形の分子が報告されたが、片方を基板に固定してもう片方を自由端とすれば、サイクルを繰り返すと基板から高分子が徐々に伸びていくような分子デバイスが作れるだろうし、また、普段は両端は自由であるが、何らかの反応で両端を自在に基質へとつなげたり離したりすることができれば、イモムシのように伸びたり縮んだりして動き回ることができると思う。様々な応用が期待できる。


Yunyan Qiu 

A precise polyrotaxane synthesizer

DOI: 10.1126/science.abb3962originally published online June 11, 2020






 

 
 
 

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